title:R.P.G もし、僕の…日常世界の立ち位置を、RPG風に表現するのなら。 僕は、いつだって勇者じゃなかった。 勇者をサポートできるやつらでもない。 「ここは、○○の村です。」と、単調に繰り返すだけの村人。 勇者の冒険を、村の中でただ聞くだけ。 現実では、例えば体育祭。 5人走って3番目。 可も無く不可も無い成績だが、ヒーローになる力もなく、道化になる才も無い。 選抜リレーに出場する同じクラスの宮田君を、場外から眺めるだけ。 そんな、人間が… 勇者になれるチャンスが、来たのなら。 僕は、喜んで、勇者に志願する。 : 「1人だ、1人、こっちへ来い。」 覆面をした男たちの中で1人、恐らく中心人物である男が、喚く。 本来なら、三校時目を、授ける筈の、教室。 真っ黒な、およそこの教室にそぐわない闖入者達。 彼らは教室の中央で、自らの要望のみを、欲望のみを、叫ぶ。 彼らが乱入してから、一分も経過しておらず、 事情をすべてのみこむことのできない僕。 僕は、ただ… クラスメートと共に、 窓際で身を寄せ合い、立ち尽くすだけ。 「おい、聞こえねーのか?誰か1人、人質でこっちへ来い。 自主的にな。こねー様なら、…皆殺す。」 突きつけられる、理不尽な要求。 それも、あまりに突然すぎて… 僕らは、顔を見合わせることすら出来ない。 「オイオイオイオイ、マジかよ。誰ぁれも居ないわけ? ちょっとそこで銀行襲ったから、ケーサツから逃げ切る迄の間で良ーんだよ。 悠長に話してる時間なんかねーんだ。 …おい、先生さんよぉ。」 男が、広瀬先生の方へ向き直る。 「えぁっ!?ひ、ひいっ!!!」 先生は悲鳴を上げ、床の上に倒れると、地を這うようにして、男の視線から逃れようとする。 「オメーも教師ならさぁ。 私の命はどうなっても良い、だから生徒は助けて! とか、気の利いたこと言えねーの?」 数歩だけ、首謀格の男が、先生に近づく。 「ああぁあぁい、いいいいいやぁ!!!! ち、近寄らないでぇっ!!来、来ないでぇぇっ!! あああああああたしあたしあたしあたしあたし、あたしっ!! あたし、何にも悪いことなんてしてないのにぃっ! なんでぇ?なんであ、あたしばっかり、こんな事!!! ひっ、人質なら、生徒から、生徒から取ればいいじゃない!! そ、そ、そ…れでぇ、またお金、取れば良いじゃない!? なんであたしなのよぉぉ!!!!!」 先生は、錯乱状態になったのか…一気にまくし立てた。 男はため息混じりに言う。 「…こりゃ、生徒も可哀想にな。」 僕だって驚いている。 あの、先生が! いつも、理知的で、冷静で、優しい先生が…。 でも、先生の態度は僕を驚かせるだけでなく… 冷静にさせた。 いつも、僕は。 勇者になれない、勇者にとっては通過点ってだけの、村の人間。 そんな人間が… 勇者に、なるのなら。 今しか、ない。 「誰も人質になってくんねーなら、先ず先生殺しちまうぞ? この先生さん、早口だが結構しゃべる。意外に時間喰っちまった。 俺らはこんなトコなんかでもたついてらんねーからよお。 いねーのか?誰も?どうだ?殺すぞ?」 男が、ゆっくりと僕らを見る。 そう、今だ。 「僕で、良いですか?人質は、僕で…。」 僕の声は、自分でも驚くほどはっきりと出た。 先生が、また叫ぶ。 「や、いや、いやぁっ!なんで君がっ!やめてよ、やめてよやめてよやめてよ!!! 生徒にそんなことなんてされちゃったら、せっ、責任問題とか… とぉっ、問われ、るの…あたしなんだからねっ!? 教師辞めなくちゃいけなくなるかもしれないんだからぁ! やだ、やめて!!!」 「まぁ、なんにせよ…さっきの発言、あれで辞めるようだろうがな。」 男が、苦笑いしながら言った。 「で、お前か。良し、来い。」 男が僕の腕を引っ張り、僕はそれに従った。 と。 足元に違和感を感じ。 「痛っ!」 僕は無様にも転んでしまった。 つられて、男も。 足を見たら、広瀬先生が僕の足にしがみついたまま、笑んでいた。 「君が行く必要はないんだよ。」 いつも通りの、穏やかな先生の顔。 決して錯乱状態に陥っていることは、無い。 「先生っ!?何やってるんですか!?殺されるんですよっ!!」 僕は、思わず叫んでいた。 訳が分からない。 ああ、この人は、何を落ち着いているんだ? その変わり身は、あまりに… あまりに…急、すぎる。 「だから、もう何も心配しなくて良いんだって。ホラ。」 そう言うと、先生は僕の後ろを指差した。 いつの間にやってきたのか、体育教官たちによって、男達が羽交い絞めにされていた。 「えっ…。なんで…。」 状況を理解できない僕は、きょろきょろと見回した。 教官達の中に、答えがあった。否、答えが、居た。 「み…宮田君…?」 がっしりとした教官達の中に、 1人だけ、学生服の少年が居た。 : つまり、話を整理するとこうなるらしい。 男達が前の出入り口から入った時、危険を察知した宮田君は、後ろの出入り口からこっそり外 へ。 先生は、宮田君が助けを呼びに行ったかどうかが気になったが、 体育館へと走る宮田君の姿が見えたので、パニック状態に陥ったふりをして、時間稼ぎに出 た。 つまり、錯乱は演技だったらしい。 その間に、教官達は教室に近付き、付近に待機。 好機を窺う。 教官の布陣に気が付いた広瀬先生は、僕の足にしがみつく事で、 一番厄介だと思われた首謀格の男を倒すことに成功、教官に手で合図を送った。 男達の乱入から、彼らが捕まるまで。 時間にして3分26秒。 実に鮮やかで、見事な手際だった。 これは… 体育館に比較的近いクラスだったのが、幸運だったのかもしれない。 宮田君に判断力があり、尚且つ足が速かったのが良かったのかもしれない。 だけど、そんなことは問題じゃない。 問題は、僕が、また勇者になれなかった事だ。 勇者は、教官を呼びに行った宮田君だから。 僕は、勇者じゃない。 僕は、宮田君が助けを呼ぶまでの、時間稼ぎでしかなかった。 僕は、勇者に、村の名前を告げるだけの、村人でしかなかった。 でも、これで良かったんじゃないか。 でも、それで良いんじゃないか。 だって、誰かが時間を稼がなきゃ、宮田君は徒労に終わる。 だって、誰も道案内をしなければ、勇者は道に迷ってしまう。 勇者の使命が、勇者にしか出来ないことであっても、 村人の使命だって、村人にしか出来ない筈だ。 それは、イコールでつなげるんじゃないか。 だったら、僕は… 村人で、構わない。 どこまでも、村人で行こうじゃないか。 管理者メッセージ(隠)RPGはいいですよwしかし、よくかけますね・・・。こういうの^^;すごいな。 冒険を終了(図書館へ |